誰しもがジョーカーになり得る『ジョーカー/Joker』感想とネタバレ、考察

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映画レビュー

『ジョーカー』を観ました。

アメリカでは未成年入場禁止の騒ぎになるほど世間を揺るがした作品らしく、個人的にもかなり気になる作品でした。

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あらすじ

「バットマン」の悪役として広く知られるジョーカーの誕生秘話を、ホアキン・フェニックス主演&トッド・フィリップス監督で映画化。道化師のメイクを施し、恐るべき狂気で人々を恐怖に陥れる悪のカリスマが、いかにして誕生したのか。原作のDCコミックスにはない映画オリジナルのストーリーで描く。第79回ベネチア国際映画祭で、DCコミックスの映画作品としては史上初めて最高賞の金獅子賞を受賞して大きな注目を集め、第92回アカデミー賞でも作品賞ほか11部門でノミネートされ、主演男優賞と作曲賞を受賞した。「どんな時でも笑顔で人々を楽しませなさい」という母の言葉を胸に、大都会で大道芸人として生きるアーサー。しかし、コメディアンとして世界に笑顔を届けようとしていたはずのひとりの男は、やがて狂気あふれる悪へと変貌していく。これまでジャック・ニコルソン、ヒース・レジャー、ジャレット・レトが演じてきたジョーカーを、「ザ・マスター」のホアキン・フェニックスが新たに演じ、名優ロバート・デ・ニーロが共演。「ハングオーバー!」シリーズなどコメディ作品で手腕を発揮してきたトッド・フィリップスがメガホンをとった。                                                                                             映画.com

キャスト

アーサー・フレック / ジョーカー – ホアキン・フェニックス
マレー・フランクリン – ロバート・デ・ニーロ
ソフィー・デュモンド – ザジー・ビーツ
ペニー・フレック – フランセス・コンロイ
トーマス・ウェイン – ブレット・カレン

感情移入出来るがゆえの恐ろしさ

ジョーカーと言えば『バットマン』に登場するヴィランとして有名ですが、今作はそのオリジン(出自)を描くスピンオフ作品という位置づけになっています。

ファンの間で神格化されていると言っても過言ではない、クリストファー・ノーラン監督『ダークナイト』におけるジョーカー(ヒース・レジャー)は、過去に何があったか、なぜ凶悪犯罪に手を染めるようになったのかなど、彼の異常性の背景が一切読み取れず、ジョーカー自身の口から語られる事が真実かどうかすら全く分からないが故の恐ろしさがありました。

しかし今作で描かれるジョーカー=アーサ-・フレック(ホアキン・フェニックス)は、アーサー自身の境遇に何処か同情させられてしまう部分があり、彼の事を理解出来てしまうが故の怖さを感じられます。

発作的に笑い出してしまう病気があるものの、アーサーは大道芸人の仕事を愛しており、家に帰れば愛する母親が待っている。

将来はコメディアンになるという夢に向かって不器用ながらも歩み続けている様子に、どこかアーサーの背中を応援したいという気持ちすら生まれてしまいます。

しかし地下鉄にてウェイン産業の証券マンたちに暴行された日をきっかけに、彼の人生は激変します。

今作におけるゴッサムシティは、非常に現実的な都市として描かれています。1980年代前半のアメリカ社会を切り取ったような薄汚れた空気感に浸っていると、時折登場するウェイン産業やアーカムという地名にふとアメコミ原作作品だと思い起されるくらい、とてもリアルな情景が、スクリーンの中に映し出されています。

貧困層と富裕層の格差が明確に描かれており、富裕層が巨大な豪邸に住み観劇を楽しむ一方で、貧困層は毎日の食事にすら苦しみ、荒れたスラム街の中では日々犯罪が横行している。最低限のセーフティネットすら失われた社会の中で、貧困層の不満は爆発寸前まで膨らんでいました。

そこに生まれたのがジョーカーでした。

言ってしまえば、ジョーカーを生み出したのはゴッサムシティそのものです。

富裕層が牛耳る格差社会にて生まれたヒーロー、その名こそがジョーカー。喜劇か悲劇かを決めるのはあくまで自分だと作中で語られていたが、誰がヒーローで誰がヴィランかどうかも決めるのもまた自分なのかもしれません。

ゴッサムを救う次期市長としてウェイン産業の社長であるトーマス・ウェインが支持を集める反面、アーサーが地下鉄にて起こした事件を切っ掛けに「ピエロの男」は貧困層の間で神格化されていき、社会の混乱の中で生まれたジョーカーは救世主として持て囃されていきます。

ジョーカーが生まれた時、バットマンも生まれた。

混乱するゴッサムシティの中、劇場から急ぎ足で出てくるウェイン夫妻は、暴徒の一人に射殺されてしまいます。たったひとり、路地に取り残された少年こそが後のバットマン…ブルース・ウェインなのです。

ウェイン家、もといゴッサムシティそのものが生み出した怪物に対し、果たしてバットマン=ブルース・ウェインはどう立ち向かうのか。

ロバート・パティンソン主演と噂される、2021年の公開予定のバットマン単独映画が本作品と地続きの作品であれば、この混沌としたゴッサムシティのジョーカーとどう戦うのか楽しみな部分もあります。

誰しもが”ジョーカー”になり得る

あくまで自分の感想ですが、今現在の自分がアーサーと他人事とは全く思えませんでした。

決して裕福とは言えない生活の中で、毎日の仕事に精神を磨り減らしている。

溜め込んだストレスを晴らす行き場もなく、増える税金の一方で手取りは全く変わらない。

明日を生きていく希望もなく、しかし自分の知らないどこかで、裕福な誰かが私腹を肥やしているのだと思うと途方も無い怒りに取り憑かれそうにもなる。

仕事も、愛する人も、希望すら失ってしまえばあとは「無敵の人」になってしまうのみ。社会に排斥された末の人間が猟奇的な事件を繰り返す今だからこそ、この映画の恐ろしさが理解できてしまうのです。

何か、導火線に火を付けるきっかけのひとつだけあれば――きっと誰しもがジョーカーになり得る可能性がある。鬱憤に鬱憤が重なる社会の中で、アーサーの身に起こった出来事は決して他人事では無いのだと、自分に対し訴えかけられるような、静かな狂気を感じる映画でした。

類似性を上げられるのが『タクシードライバー』と、作中にも出てきた『モダンタイムス』。

タクシードライバーで主演を務めたロバート・デ・ニーロが重要な役どころを演じている時点でもかなり意識されている部分がありそうです。

過去の名作に対するオマージュや類似点を差し込みつつ、アメコミ原作という題材ながら、社会に対する痛烈な皮肉を浴びせかけるあたりが今作の魅力的部分だと感じました。

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